「魔法少女三十路」
体裁を大事にし、目立たず幸せに生きることを信条とする35歳・独身の保守ようこは、ある日突然正義の魔法少女「ピュアバイオレット」にされてしまいます。
自分自身でさえも吐き気を催すほど痛々しい姿+目出し帽で顔を隠すという、日曜朝のアニメでは決してありえない「魔法少女」が、精神的ダメージを負いながらどこか憎めない敵を相手に戦っていくギャグマンガです。
ルッキズムやエイジズムというコンプレックスを抱えながら、味方であるはずのうさやピュアサンフラワーの容赦ない精神攻撃を力に変えて戦うようこの姿に、同情しつつもついつい笑ってしまいます。
登場人物
保守ようこ(ほし ようこ) / ピュアバイオレット
35歳・独身。防御力特化型、サンドバッグ。
パートナーのうさに半ば脅されるかたちで魔法少女にされてしまった。
顔バレをおそれ、トイレットペーパーを顔に巻いたり、目出し帽をかぶってみたりと怪しいコスプレイヤー同然の格好で敵と対峙する。
自己肯定感が力の根源だが、三十路半ばであることの自覚から通常時の自己肯定感は5。
ただし、子育てを経験している同世代よりも胸が垂れていないことを知り、一時的に自己肯定感を大幅にUPした。
うさ
ようこのパートナーでウサギ型の妖精。語尾が「~うさ。」
自身が持つ「願いの器」を邪心から守るため、魔法少女のパートナーとなる。
決して少女では無いようこの痛々しい姿を前に一度は契約を解除しようとするが、契約の途中放棄は死刑であることを知り、嫌々ではあるがようこに魔法少女を引き受けさせる。
後輩が見つけた魔法少女がかわいい中学生であることがうらやましくてしょうがない。
立花心(たちばなこころ) / ピュアサンフラワー
12歳・中学一年生。攻撃力特化型、アタッカー
年齢も脚の太さもようこの3分の1しかない快活美少女で、母がようこと同い年。
自己肯定感の高さは誰にも負けないと自負し、530000の数値を誇る。
無自覚に地雷を踏み、ようこを精神的に痛めつけるが、本人はようこを心から尊敬しており、ほとんど信者のようになることもある
ぶさ
心のパートナーの妖精。「~ぶさ。」
うさの本性を知っており、うさが心に近づくことを許さない。
うさから絶世の美少女と聞かされていたようこの素顔を見て出た言葉が「・・・ぶさ」。
魔法少女三十路 全巻あらすじ
1巻:悲劇の始まり
三十路半ばで独身のようこは、日々目立たずに穏やかな日々を過ごすことを第一に生きていましたが、うさぎのぬいぐるみのような姿をした妖精・うさによって真逆の生活を送ることになります。
今日から魔法少女だと一方的に告げられると、洋子の姿は日曜朝の女児向けアクションアニメのような衣装を身にまとったものに変わりました。
もちろんプ〇キュアに三十路の主人公など出てきたことはありません。
本人たちも吐き気を催すほどの変わり果てた姿で、初めての敵・ゴッデムに挑み、なんとか退けることに成功しましたが、得たものは膨大な精神的ストレスと「テロリスト」の称号でした。
憧れの魔法少女であることと中身のギャップに葛藤を感じる中、年齢も脚の太さも3分の1しかない2人目の魔法少女ピュアサンフラワーが現れ、無自覚に母と同い年であるようこのコンプレックスをほじくり返していきます。
正体がばれないよう顔にトイレットペーパーを巻いてみたり、腕に決して付くはずのないキスマークをつけてみたりと、魔法少女になってしまった三十路女性が故に現実で必死にもがく姿がテンポのよい哀愁と笑いの繰り返しで描かれています。
2巻:新たな敵
自らの世間体を切り崩しながら魔法少女であることを隠し続けるようこの前に、新たな敵・ノアが現れます。
ようこの正体を突き止め、願いの器を差し出すよう脅してきますが、ようこたちもまたノアの知られたくない真の姿を突き止めてしまい、この場は引き分けとなりました。
しかし一息ついたようこに、またもや心の無自覚な気遣いが襲い掛かります。
結果的になんとか自己肯定感を高めることに成功するのですが、周囲はそれを許しません。
ゴッデムや母、うさの悲しい気遣いによってようこのメンタルは痛めつけられていきます。
救いと言えば、魔法で一瞬足が細くなり、魔法少女になったことを初めて喜べたことくらいでした。
ノアもまたルッキズムによるコンプレックスを抱えています。
それを隠すためにようこたちがドン引きするほどの恥も辞さない必死な姿が滑稽です。

ある意味ようことノアは似た者同士かもしれませんね。
心の暴力的ともいえる無邪気さと、精神を痛めつけられるようこの幸薄さのギャップに思わず笑いがこらえられません。
3巻:夢見る三十路
ようこの後輩・渚は王子様との結婚を夢見る三十路ですが、世間はそれを「イタイ三十路」として許してくれません。
ノアはそんな渚のコンプレックスにつけ込み、ようこたちへの敵へと仕立て上げてしまいました。
狙いは自ら手を汚さずに魔法少女を追い詰めること。
心が説得を試みますが、若く将来のある心では渚に響く言葉を持っていません。
これまで必死に正体を隠してきたようこですが、同じイタい三十路として素顔をさらして説得することで、ようやく渚の暴走は止まったのでした。
細かいギャグを挟みつつ全体的にエイジズムがテーマのシリアスな展開が続きました。
正義感だけではどうしようもないことを知った心と、絶対に正体がばれたくないようこの身を挺した説得は、2人の魔法少女としての葛藤と成長の兆しを感じられます。



見る人によって、心、渚、ようこの中で共感を覚える人物が違いそうなエピソードですね。
4巻:嵐の前の悲劇
ようこの寝顔とをう〇このにおいがする口臭に落胆するうさは、心と暮らしているぶさに嫉妬してしました。
もしかしたら心も口が臭いのかもしれないと思ったうさは、それを聞いて少しでも気持ちを和らげようとぶさを訪ねますが、聞く話すべてただの自慢話にしか聞こえません。
結果的に心も口が臭いことを知ったうさですが、それでは気が済まないほど心にダメージを負って帰ってくるのでした。
一方、渚を救う姿に胸を打たれた心は、すっかりようこに心酔してしまいます。
魔法少女としてのあり方に悩んでいることを打ち明けると、優しく諭すようこの言葉に心の憧れをますますこじらせてしまいました。
そんな中、心は新たな敵・リリィに襲われ重傷を負ってしまいます。
家に訪れた敵から逃げようと、うさは画期的な作戦を考え出しますが、ようこは社会的にも精神的にも大きなダメージを負ってしまうのでした。
あらたな敵が現れる前の日常が描かれたギャグ多めの巻です。
前半は特にうさの暴走っぷりと、言われたい放題なようこに笑えます。



心が魔法少女としての葛藤に向き合っているころ、うさはぶさへの嫉妬と向き合っていたんすね。
どこか憎めないゴッデムやノアと違い、恐怖を感じさせる敵の登場でしたが、ようこの姿がどうしてもシリアスを許しません。
5巻:最強の敵
ようことうさは、リリィの圧倒的な力を前に願いの器を奪われてしまいました。
邪心王の定めた掟によって、決して命を取られることはありませんでしたが、はじめてようこは魔法少女であることの恐怖に打ちのめされてしまいます。
何とか病院に運び込まれた洋子は、戦闘モードに入っているうさと心を止めようと、か弱い乙女を演じますが、その場にいた全員が精神的ダメージを負いました。
修行と称したようこへの罵倒により、怒りで自己肯定力を高め、リリィと再び対峙します。
魔法少女を殺してはいけない掟を逆手に取り、若干恥ずかしい方法でリリィの攻撃を封じることに成功したようこ。
隙をついた心の攻撃がリリィを捕らえようとしていました。
絶望に打ちのめされシリアスモードに突入かと思いきや、やはりそこは安定のギャグ路線。
落として落とす、というこの漫画ならではの展開は新しささえ感じます。



一方で魔法少女として成長を見せる心と、罵倒によって力を得たようこの戦いがどのような決着をみせるのか楽しみです。
ナンみたいな太ももってどんな感じなのでしょうか。
6巻以降の展開
敵の攻撃が激しさを増す一方、ようこたちもまた魔法少女として力をつけてきています。
その方法には若干の問題がありそうですが、また笑いを交えながら成長する姿が見られそうです。
まとめ
三十路女性が魔法少女にというテーマに目が奪われがちですが、むしろ本質は三十路女性が抱える現代社会でのコンプレックスと自己肯定感にあるのかもしれません。
ただただ精神を痛めつけながら戦うようこ、どこか緊張感のないパートナーうさ、「ザ・魔法少女」ともいえるテンプレ設定の心。
どうしてもようこに共感・同情を感じ、笑いながらもついつい応援したくなる。
そこがこの作品の最大の魅力でもあります。



気になったら読んでみてねー