1994年から2000年にかけて「りぼん」で連載された「こどものおもちゃ」は、「アンダンテ」「Honey Bitter」などで知られる小花美穂先生の代表作。
小学校を舞台にしたこの作品は、小学6年生にして芸能界で活躍する倉田紗南(さな)と、クラスの問題児・羽山秋人(はやま)を中心とした物語です。
タイトルから、なんとなく「大人が読んでも…」と思うかもしれませんが、まったくそんなことはありません!
家庭の問題や心の傷などのセンシティブなテーマを扱いながら、クスッと笑える場面もあり、紗南たちの葛藤に思わず涙するようなシーンも。
子供でもなく、大人でもない。そんなはざまで揺れるキャラクターたちの成長が胸に響きます。

この記事では「こどものおもちゃ」のストーリーをネタバレありで振り返りながら、印象的なシーンを紹介していきます。
ネタバレ注意!「こどものおもちゃ」全10巻のあらすじまとめ
クラスメイトでありながら「敵同士」だった紗南と羽山。
でも、学校でのいじめや家庭の問題、すれ違う恋心など、様々な出来事を乗り越えていく中で、かけがえのない存在になっていくのです。
二人の関係がどう変わっていったのか、印象的なエピソードを交えながら振り返っていきます。
<h3>とげとげ羽山と全力紗南|敵同士だった二人が支え合う関係に</h3>
紗南のクラスでは、先生いびりやいじめが日常的に行われていました。
その中心となっていたのは、ボス猿的存在・羽山。
紗南は、そんな状況にイライラしつつも「関わりたくない」とスルーしてきましたが、ついに見過ごせなくなり、羽山たちと対立することに。
くだらないことはやめさせようと、紗南はバンジージャンプでの決闘を挑んだり、羽山の弱みを握ったりと真正面から向き合っていきます。
その中で、羽山に暗い影があることに気付きました。
羽山は、自分のせいで母親が亡くなったと思いこみ「家族に嫌われても仕方ない」と、距離を置いて暮らしていました。事情を知った紗南は、彼を放っておけなくなるのです。
自身が出演するドラマを通し、なんとか羽山一家の関係を修復させようと奮闘する紗南。
「お母さんはあーちゃん(秋人)を、愛してるから生んだのよ」と、母親役になりきり羽山に語り掛けるシーンには思わず目頭が熱くなります。
ちょっと強引ながらも、全力でぶつかってくる紗南に、羽山はだんだん心を開いていきます。
実は、明るく屈託のないように見える紗南にも「生まれてすぐに母親に捨てられた」過去がありました。
それを育ての母親・実紗子がエッセイ本にしたときには、自宅にかくまうなど、紗南の力になろうとする羽山。
子供ながらに家族との距離に悩む二人が、そばにいるうちに、お互いがなくてはならない存在になっていきます。この変化に、読者の心も温まることでしょう。
羽山は周りが気付くほど紗南を意識しているのに、当の紗南は恋に鈍感で、まったく気付かないところもかわいらしいです。
物理的な距離が、いつしか心の距離に
中学生になった紗南たち。
関係性自体は変わらないものの、それぞれクラスが分かれたことで、以前のように集まる機会は減りました。
新しい環境でできた友達・風花(ふうか)は、裏表のないはっきりとした性格で、紗南ともすぐに意気投合。親友と言える仲になりました。
その頃、紗南に映画の出演オファーがきます。撮影は三か月の山ごもりということもあり、断ろうとした紗南でしたが、羽山の後押しもあって出演を決意。
紗南が不在の中、羽山はひょんなことから、1日だけ風花の彼氏役を引き受けることに。
風花も羽山の意外な優しさに触れ「悪いやつじゃない」と感じ始めていたのと、紗南がいなくて寂しそうに見えてしまったことがきっかけで、本当に付き合うことになります。
一方紗南は、山の中で必死に撮影に励んでいました。電波も届かず、みんなとの連絡も取れません。
そんな中、共演者の直澄(なおずみ)のファンから嫉妬による暴行を受けて大けがをしてしまいます。
それでも撮影続行を望み、頑張っていた紗南ですが、羽山と風花が付き合い始めたことを耳にして、ショックのあまり仕事に手がつかなくなってしまいます。
このとき、ようやく羽山への想いを自覚するのでした。
周りの人に支えられ、なんとか持ち直した紗南。
けがした足を引きずりながら、燃える館から脱出するシーンを命がけで演じ、山生活が終了しました。
しかし久しぶりに会った友達が、雑誌で出回った「紗南と直澄の交際」の情報を信じていたことを知ります。
誤解されていたことにショックを受け、紗南は徐々に距離を置いていきました。
紗南と直澄の記事が嘘だったと知る頃から、羽山は昔のように荒れ始めていました。目つきも態度も、小学生時代に戻ったようで、その頃を知らない風花は戸惑います。
紗南の友達・剛(つよし)が過去の羽山について話すと、表情が曇っていく風花。
「いいやつ」と思っていた羽山は、紗南の存在があってこそだったのだと気付いたのです。
「羽山が好きだ」と紗南が気付くころには、もう風花と付き合っていて、どうすることもできません。
二人のすれ違いはもちろん、信頼していた友人たちとの関係が揺らいでいく切なさに、胸が痛くなります。
羽山なりの「けじめ」と、傷つけた代償
羽山や風花とぎくしゃくしてからというもの、紗南は自分の気持ちを押し込むように、芸能活動に一層打ち込み始めます。
そんな頃、羽山はクラスメイトの小森とトラブルに。
小森は羽山を友達だと思っていたのに、羽山は彼の名前さえ知らず、そのことに深く傷つき姿を消してしまったのです。
「樹海にいる」と書き残したノートを見つけた羽山は、小森を探しに向かいます。
紗南も不安を感じつつ「自分もついていくとなると、羽山の気が済まないだろう」と思い、黙って見送ります。
無事に小森を見つけた羽山は、なんとか帰るよう説得することはできたものの、その途中で錯乱状態だった小森に腕を刺され、深い傷を負ってしまいました。
ようやく小森を連れ帰ってきた羽山は、紗南の前に姿を現した直後、力尽きたように倒れこみます。
そして意識を失ったまま、危篤状態に。
生死のはざまで母親と再会し、言葉を交わした羽山は、かろうじて命を取り留めることができたのです。
けれど、その代償は大きく、右手に後遺症が残ってしまうのでした。
「彼を傷つけたのは自分だから、連れて帰れるのも自分だ」と、羽山は迷いなく小森を探しに行きます。これまで他人がどう思おうと、お構いなしだったのに、人を傷つけたことに対しての落とし前をつけようとする羽山の、心の変化が描かれていました。
帰り道、小森と少し話したことで、彼が抱えていた闇の部分が少しずつ明かされます。
遠回りはしたものの、羽山と小森が本当の「友達」になっていくシーンが印象的でした。
大きな試練。大人になりきれない子供たち
右手に後遺症が残ってしまい、日常生活や、ずっと続けてきた空手がこれまで通りにできなくなりました。
それでも、風花ともけじめをつけ、紗南と向き合うことにした羽山。
精神的に不安定なときも、紗南の存在に支えられ、前を向けるようになってきました。
その矢先、羽山の父に転勤の話が出てきました。行き先は、ロス。
日本に残りたい気持ちは伝えたものの「子供である以上、親の転勤についていかなければならない」と覚悟を決めかけていました。
羽山から引っ越しの話を聞かされた紗南は、驚きつつも受け入れたような態度を見せます。
ところが、自宅に帰った紗南は「人形病」を発症したのです。
人形病は、紗南が幼少期にもかかった際に母が名付けた病であり、何らかの要因で表情を失ってしまうもの。
「羽山がロスに行く」。そのことがきっかけになったのは、誰の目にも明らかでした。
紗南を置いて行けないと感じた羽山は、父に抵抗しようとしましたが、有無を言わせません。
実は父にも「羽山の腕を専門医に診てもらいたい」という思いがあり、水面下で手術の依頼をしている最中だったのです。
父の事情を知らない二人は「自分たちは子供だから、大人の事情に振り回されなきゃいけない」「早く大人になれたらいいのに」と、もどかしい思いが募っていきます。
引っ越しが迫る中、紗南はだんだん体力も落ちてしまいますが、ずっと行きたがっていたテーマパークに、思い出作りをしに行くことにしました。
楽しいはずなのに、相変わらず表情がないままの紗南。
パークで撮った写真を見て、ついにそれを自覚します。
ショックで取り乱しましたが、それ以上に限界だったのは羽山でした。
「紗南が笑ってくれていたから頑張れていたこと」「さみしいのは自分だけではないこと」。自分の本音を、涙ながらに伝えます。
羽山の想いを聞いた紗南は、やがて表情が戻っていくのです。
紗南の病気がわかってから、羽山はずっと献身的に支えてきたのですが、もちろん自分も腕や引っ越しのことで不安があるはず。
普段ひょうひょうとしている羽山が、感情むき出しで涙を流すシーンは、たまらない気持ちになりました。
物語のラストは、羽山がロスでリハビリや空手に励む姿、紗南が芸能活動の一環として「視聴者のお悩み相談」をする様子が描かれています。
いくつもの試練を乗り越えて現状を受け入れていくことで、人として成長していく姿に思わずジーンとさせられました。
無理に大人になろうとしたり、平気なふりをしたりしていた紗南たち。
でも、その裏側では言葉にできない不安や揺れがあります。そんなアンバランスなところも「子供らしさ」なんじゃないかと思います。
まとめ|今だからこそ、もう一度読みたい名作
ぶつかり合いながらも、支え合って成長していく紗南と羽山。
子供らしい未熟さと、大人顔負けのまっすぐさが入り混じる二人の姿は、読むたびに心を揺さぶられます。
むしろ、大人になった今だから、紗南たちの気持ちに共感できる部分があるのかもしれません。
笑って、泣いて、ちょっと切なくなって。
「こどものおもちゃ」は、何年たっても色あせない名作です。
作中で紗南が出演した映画が番外編として描かれた「水の館」や「HoneyBitter」とコラボした「Deep Clear」など、番外編や続編も楽しめる作品なので、ぜひ一度読んでみてください。